今日は奇跡の日。奇跡の日は年に1〜2回ほどBIGHOLIDAYでは毎年起こります。BIGHOLIDAYを創業する前はそういった類の事とは無縁の人生を送ってきました。ボクはごくごく平凡な忘れ癖が激しすぎるトラブルメーカーな店主トッティです。

でもきっとHOLIDAYは”持ってる”お店。

今日は2本目前に用を足した後、ドライスーツの通称『しょんべんファスナー』を閉め忘れたまま全開で大海にダイブしました。まるで水洗トイレを”大”で流した時くらいの勢いで入ってくる。水中でひとり悶絶して溺れかけた後に急いでファスナーを閉めるもインナーズボンのウエストを絞るヒモがなぜかファスナーから『ぴろ〜ん』と長めに出ている。。

一瞬で究極の決断を迫られる。

  1. 水中でこのしょんべんファスナーを超絶素早く開閉してヒモをうまくしまう
  2. 少しずつ且つ絶え間なく入水してくる海水に耐えながら1DIVEやり過ごす

その刹那に頭に浮かんだ答え:『もう、どっちでもいいじゃん』

天気も良くて最高な1日で終わるはずだった昨日

一昨日の最悪なコンディション(風の強さ、波の高さ、寒さ、超くもり)を乗り越え、やっと訪れた至福の1日が昨日。しかし至福の時が一変する事となる。

参加者はカップル2名(ガイドしんちゃん)とお兄さん2名(ガイドTotty)。ランチ休憩時に聞くとそのカップルさんは、なんと2日前に結婚したばかりの超新鮮新婚さんでそういう旅行という事だった。ブレンズ(自社ボート)上では笑顔と拍手、おめでとうで溢れ、とても和やかで穏やかな雰囲気になっていた。

そしてその日のラストダイブは天使の梯子を二人に見せたくて『マリンレイク』というポイントで潜った。

ど干潮で潮が引きすぎてウネリで気泡が降りてきていて万全のコンディションではなかったが、それでも想定とクオリティレベルにおいての範囲内での光を見る事ができた。

今日一日を各々が振り返り、満足してもらえたようなそんな表情がたくさん見られた。良かった。

新郎のカメラが無い

明日もダイビング予定の二組と港で片付けをしていると、新郎が『ボクのカメラ見ませんでした?』と言って歩み寄ってきた。いつもカメラを入れているバケツ、カゴを確認するも無い。

どっかに紛れてないかとスタッフ総出で一度片付けた荷物を全てひっくり返す。しかし無い。

記憶を辿る

エキジット後にどこで外したか尋ねたが、新郎は覚えていないと言う。無理もない。3DIVE目のポイントではボートの揺れがかなり激しかったので、エキジット後にバタバタと船を出し帰港したからだ。

エキジット時には腕にカメラは付いていたのか、ボートのヘリに置いた記憶は無いか、自分のカバンに入れた記憶は無いか、記憶を一からスタッフ&ゲスト全員で辿る。

一度整理するとボート上、荷物、他のゲストのメッシュバックはくまなく探したが無かった。可能性としてはエキジット前に落としたかどうか。

そこで一つの大事な情報が出てきた。『安全停止の時にガイド(しんちゃん)に夫婦で記念写真を撮ってもらった』という事だった。これは大きな手がかりで多いなる一歩だ。そこまではカメラはあったのだ。

明日の朝一番で同じ場所に船を停めて捜そうという事でゲストと約束を交わし、少し切ない笑顔の二組の乗る送迎車を見送った。みんな解っていた。新婚旅行の想い出が詰まっていることを。その他の大事な想い出までもがそのカメラに詰まっていたかもしれない。

聞けなかった。

店をあげて捜索をすると誓った今日

ショップに帰ってきて片付けをした後にミーティングをした。情報を整理する。3DIVE時のブレンズの船下は棚上だったか斜面だったか底の深い場所だったか。どこで安全停止と記念撮影をしたか。

安全停止をした場所一帯からブレンズの梯子までの範囲の水底が一番有力だという答えまでは辿りつけた。『ボクのカメラ見ませんでした?』からの一連の流れからやっとここまでこれたのだ。

ここからハッピーエンドに向かうにはどう考えたって見つけるしかない。そしてBIGHOLIDAYというショップはそういう時にこそ立ち上がれるショップで在りたい。今も昔もこれからも。

絶対に見つけると誓い布団に入った。

可能性に賭ける

ミーティングで練った作戦としては、まず朝一番で例の場所にブレンズを停める。1DIVE目はトッティがマリンレイクと別方向にある『中の島ホール』というポイントで全員を1チームでガイド。しんちゃんは1DIVE目を全てに捜索に当てる。見つからなければファンチームの安全停止でしんちゃんとトッティはチェンジしてゲストはしんちゃんと共にエキジット。トッティはそのまま水面休息時間を使って、いけるところまで捜索を続ける。

そして本番に入りガイド中の事である。新婚カップルを別参加のお兄さんが何度も何度も撮影していた。元来このお兄さんは進んでこう言う事をするタイプでは無いように思う。優しい方である事は見ていてとてもわかるけれども、控えめで遠慮がちでおせっかいは焼かない。しかしいつもそっと近くで見守っているタイプ。そのお兄さんがこういう行動に出るという事はそういう事だ。万が一、カメラが見つからなかった時の事を想っての行動だ。もちろん誰に頼まれたわけでも無い。

感動した。

そして1DIVE目も終盤、祈る気持ちで船下に戻るとしんちゃんがまだ捜索を続けていた。ダメか。

しかし、しんちゃんが見つけられなかった時の事は昨夜の布団の中で実はすでに対策済みだ。どこから探してどこで集中的に時間を使うか、現場で再確認することは何か。気を抜くと荒くなりそうな呼吸を自制しながら、可能性が薄そうな場所をさらっと潰して、いざ本丸へ。

 

『もしかして』

カメラは急にパッと目の前に現れたワケではない。

生物のサイズや特徴にもよるが、ガイドは珍しい魚や小さな生物を見つける時、一般の人が想像するよりかなり離れた場所から見つけている事が多々ある。対象物をピンポイントで探しているのではなく”違和感”を探しているからだ。それはいつも見ている生物では働かない特別な違和感。

自然界に人間が作るような”綺麗な直線”は存在しないと聞いた事がある。後から考え今思うと、その直線の違和感をボクの脳は”違和感”として感知してくれたように思う。見つけた瞬間は豆粒ほどの距離で目を凝らしてもまだカメラだという確信は得られなかったほどの距離だった。

『もしかして』から距離をゆっくりゆっくり詰めてそれが確信に変わった時、ただただ『良かった』と思った。本当に良かった。カメラの写真は一枚目二枚目ともに見つけた瞬間から一度も手を触れていない。一晩をここで過ごし、砂埃を被りながら主人を待ち続けたリアル。

ただの『モノ』には見えなかった。そのままの姿をなぜか撮りたいと思った。

奇跡ってものは、案外立て続けにやってくる

感動もひとしおで2DIVE目は宮古島の顔『魔王の宮殿』。光もバッチリなハイクオリティ魔王を楽しんで、3DIVE目は新婚カップルのリクエストを叶えるため、カメを探した。

特に新郎は我も忘れるほど興奮しているのが見て取れたので、良かった。カメラは充電が無くなっていたのでブレンズに置いてきたが、レンタルのGoProで新婦と子カメの2ショットをバッチリ撮れていた。

昨夜にユカが準備していたサプライズプレゼントはしんちゃんが水中で演出。3DIVE目のエキジット後にはクルー全員がハッピーハッピーエンドの空気を纏っていた。

まだエンドじゃなかった!これが本当のラストハッピー!!

ポイントにブレンズを停めたまま帰港に向けてシャワーや身支度、片付けをしていたその時、歓声が上がった。ボクは冒頭の”しょんべん事件”以来のしょんべんをキャビンで鼻歌まじりに放出していた最中の歓声。

ザトウクジラさま降臨!!!!!!!!

 

計15分間、潜って姿を消すのは2分程度で後はずっと水面を泳いでくれた。最短ではブレンズから10mまで近づく事が出来きた。そしてもう一度クジラまでの距離が10mに近づけるチャンスがあれば普通の服のままカメラだけ持って飛び込もうと思った。

【船長、ボートを置いて至福で私服で飛び込むの巻】をマジで敢行しようと思い、カメラを取りに一旦後ろへ走ったがチャンスはもう来ず残念ながら未遂。ボクの夢はまた次回に。

今日の二つの奇跡は一見全然関係無いように思えるけれど、BIGHOLIDAYとそのゲストにとって二つの奇跡は、完璧という言葉以上のストーリーとして繋がっている。

確信しています。HOLIDAYは”持っている”お店であると。

もっと言えば『持っていると信じて人事を尽くせ。天命はきっと少し遅れてやってくる』という事をいつまでもボクたちの普遍的なポリシーとしてHOLIDAYの一人一人が心の片隅に”持っている”、または”持たなきゃいけない”という事なのかもしれない。

こんな笑顔見せられたら、そりゃ誰だって報われる。

よし、明日からまたみんなで頑張ろう。